『シロというネコ』

 全身真っ白なので「シロ」という名前のネコは、まれに見る凶暴凶悪な猫だった。一緒に住んでいる家族にはなついているようだが、その家に頻繁に出入りする、近所や親戚など、ありとあらゆる人間を、眼光鋭くにらみつけ、もし心地よくなでてもらったとしても、そこからごろにゃあと機嫌良くはならない。ましてや動物に、ネコに不慣れな人間に対しては、何様のつもりだと目もくれないし、憤怒の形相で威嚇してくる。
 里帰りした息子夫婦の布団をどうどうと占拠し、冬は炬燵のなかの王者であり、人が横になれば夏でもお腹に乗ってくる。気まぐれに外へ出ようとする。「こら!」と家人が呼び止めると、足をとめてちらりと振り返る。だがまた歩を進める。片手でスイーと引き戸をあけて、結局でていく。だがすぐに戻ってきて、たいてい家の中でごろごろしている。家族が台所に立つと、何か食い物がもらえるのだと、冷蔵庫のそばにたち、にゃあにゃあと話かける。呼ばれるたびにエサをあげていては、デブネコまっしぐら。節制を強いられると反抗的。
 まだ若い頃は、目の前にちらちらするものがあると、野生の血が騒いでいた。別猫のように、跳ねる、飛びつく。だがずいぶん老いた。毛はぼそぼそとみすぼらしくなり、細くなり、ゴツゴツと骨張った足腰。冷蔵庫の下に立つことはやめないが、そこにとどまることがおおくなったのか、近くにダンボール箱もすえて、くるりとちいさく丸くなる。
 ごろりと寝ていることが多い。動きは緩慢で、まるで白い幽霊のように、じっとどこかをみていたり。だがソファを毛だらけにして、苦情を訴える家族とにゃあにゃあと言い合いもする。頭をなでたらできものでもあったのか、逆上して爪をたてた。肉球はいろあせて、爪があまりひっこんでいない。