すき焼きと肉豆腐

 すき焼きが食べたいことがあるが、我が家にはすき焼き用の鍋がない。分厚いみんなでつつくような立派な鉄鍋でやるすき焼きやとても美味しいが、そもそも、そのような鍋もめったに売っていない。親にどこで買ったか聞いても無駄だろう。三十年は確実にたっている。
 すき焼きを食べたいときはどうするかというと、そもそも肉は高い。牛肉は切り落としばかりである。鉄のフライパンもなかったので、ステーキ用の肉を買うことも基本的にない。(鉄のフライパンは最近買ったが、またステーキを焼いたことがない。)すなわち、すき焼きは、家をでてから、三,四回ぐらいしか食べていない。自分の実家、義理の実家、家で鍋を借りてきて一度。
 鍋を借りてきたときは、鍋は重いし、味付けが全然うまくできなくて、どこぞからいただいた高級な肉を無駄にしてしまった思い出がある。
 されど肉は食べたい。最近、百グラム二五〇円ほどの牛肉でも、野菜炒めや牛丼でも、ずいぶん美味しいし満足感があることが分かった。それで甘い味の肉を食べたいなぁ、と思って、肉豆腐を作ってみた。
 さて肉豆腐、とは、いったいなんなのか。関西では肉じゃがといえば、肉といえば、牛肉である。肉じゃがも甘くて美味しい。すき焼きはおそろしいほどぽいぽい砂糖をいれる。肉豆腐とはなんなのか?、と思いつつ、インターネットでレシピを探して作ってみる。野菜のない肉じゃがのような、すき焼きのような。
 なるほど生卵を割っていれたら、すき焼きである。

 そもそもすき焼きは、西と東でずいぶん作り方がちがうらしい。東のすき焼きなど、東京に住んで四半世紀だが、いまだに食べたことがない。西の味のすき焼きも自分では作れ

ない。親から教えてもらえばいいのだが、味付けをはかっているタイプではないので、伝授できない。それで関西のすき焼きの作り方も調べてみたら、色々あるようだが、なんだか限りなく肉豆腐に似ている感じがしてモヤモヤしてきた。
 違う点は、すき焼きは、上等な肉を使う、焼き豆腐を使う、ネギ、しらたき、春菊などをいれるが、肉豆腐は、肉が切り落としや牛バラで、豆腐は普通の豆腐を使い、野菜はないレシピが多いようである。そして、すき焼きは、そんなに煮込まないが、肉豆腐はそれよりは煮込む。バラの場合は、少し煮込んだほうが美味しいだろう。

 そもそも関東にすき焼きの習慣はなく、あとから入ってきたそうだ。良い肉が手に入らなかったときは、いろいろ味付けをしたそうだ。安い肉を使うときは、肉豆腐が良いのかもしれない。だが、すき焼きも砂糖やしょうゆをがんがんにいれる。違いがますますよく分からない。

 すき焼きが食べたい、と思うとき、おそらくは甘い肉を思い出している。だからそこらへんの味付けがあってれば、どちらでも良いのかも知れない。